下血と血便:読み飛ばし推奨
ここからは少し思い出話になるので、時間のない方は読み飛ばしてください。
「下血と血便、どう違うの?」
これは、私が所属していた東海大学消化器内科の内科カンファレンスで、当時の主任教授が研修医や若手医師によくしていた質問です。
「どちらも、肛門からでるもので・・・」と多くの研修医は戸惑い、きちんと説明できていない人が多かったのを思い出します。
- 下血は、上部消化管(胃や十二指腸)から出血したものを原因とした、暗赤色または黒い便(タール便)を指します。
- 血便は下部消化管(主に大腸)からの出血を原因とした、赤みの強い便を指します。
消化器内科医は、夜の当直中に、外来振り分け担当の若手医師や看護師から「血便なので来てください」と呼び出されると、電話越しに「本当に血便ですか?下血じゃないですか?」、としつこく聞いて、嫌な顔をされていたものです。向こうにとっては、「血が出ているんだから、どっちでもいいだろう、早く来いや」と思われていたのだと思います。
しかし、夜間の呼び出しにおいては、上部消化管からの出血なのか、下部消化管からの出血なのかで、駆け付ける側の心の準備が全く異なります。
- 「下血=上部消化管出血」ならば、状況により緊急胃カメラによる止血が必要となります。その際、一人だとできない処置もあるので、(一人で)カメラの準備をしたり、家族に緊急内視鏡のリスクを説明して同意書をとったり、バックアップのお手伝いの人員を呼び出したり、止血器具の準備をしたり、が必要です。もちろん緊急内視鏡後はそのまま入院してもらい、翌日も止血できているかの確認目的の胃カメラをしておりました。
- 「血便=下部消化管出血」ならば、採血で貧血進行具合を確認し、CTで出血部位の検出を試み、細かな血圧管理を目的に点滴・入院してもらいます。そして全身状態を整えて翌日朝から下剤を飲んでもらって大腸カメラを行うのが基本方針となります。(下剤を飲んでいない状態で大腸カメラをやっても、便まみれで何も見れません。穿孔のリスクもあり危険です。)
そんな違いがあるので、当時の教授は口すっぱく、用語を正しく使うように指導されていたのだと思います。
下血
上部消化管(食道・胃・十二指腸)に由来する出血が、肛門からでるもので、暗赤色便、黒色便(タール便)となることが多いです。
食道 | 食道静脈瘤の破裂 |
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胃 | 胃潰瘍出血、胃癌からの出血、胃静脈瘤の破裂 |
十二指腸 | 十二指腸潰瘍出血 |
血便
下部消化管(主に大腸)由来の出血が、肛門から出るもので、血便、鮮紅色の便となることが多いです。
大腸 | 大腸憩室出血、虚血性腸炎、大腸ポリープ、潰瘍性大腸炎、クローン病、感染性腸炎、放射線性腸炎、痔核など |
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やっぱり下血と血便の
違いは大事です
鉄剤を飲んでいないのに黒っぽい便が出る下血は、上部消化管からの出血で、緊急事態です。すぐに受診してください。体調により、救急車を呼ぶことも必要となります。
赤みが強い便は下部消化管からの血便です。出血量が多くなければいいのですが、血圧が下がるようならば、救急病院受診も必要です。
便が黒っぽいのか、赤っぽいのか、だけでもわかっていると、消化器内科医は「ムムッ」となりますので、便の色をきちんと観察するか、もしくは写真にとってきていただくと、とても助かります。
血便の検査
直腸診
痔による出血が考えられる場合は、直腸診を実施します。直腸診とは、医師が手袋をはめて医療用ゼリーを指に塗ってから、肛門に直接触れて触診する検査方法です。痔をはじめ、むくみや腫瘤などの有無をチェックし、直腸粘膜の状態を調べます。
血液検査
炎症の度合いや出血による貧血の有無をチェックします。緊急性の高い状態ではないかを調べるのに有効です。炎症の度合いを診て、必要な治療を探るためにも行われています。
大腸内視鏡検査
直腸の奥~大腸全域、そして小腸(大腸に近い部分)の粘膜を直接調べることが可能な検査です。組織を採取して、確定診断をくだすこともできます。状態を隅から隅まで調べられるため、早期大腸がんをはじめ、前がん病変の大腸ポリープを見つけることも可能です。当院では、検査中にポリープを切除する「日帰り手術」も行っています。
胃内視鏡検査
食道や胃、十二指腸の粘膜を調べることができる検査です。組織を採取して、確定診断をくだすこともできます。黒色便などがあった時に、受けていただきます。検査中には出血箇所をクリップなどで留める処置や、注射を用いた治療を受けることも可能です。
血便の治療
軽度の切れ痔や内痔核がみられる場合は、薬物療法を中心とした生活習慣の改善で治していきます。それ以外の疾患が生じている場合は、その疾患に適した治療を行います。便潜血検査で陽性と判定されて受診した結果、早期大腸がんが発見された方の場合は、大腸カメラ検査中に切除して治します。進行した大腸がんを見つけた場合は、別日に外科手術を受けていただきます。感染による炎症の場合は、一時的に食事を抜いたり、点滴・抗菌剤を服用したりする治療を行います。