慢性胃炎とは
胃炎は臨床経過に応じて「急性胃炎」と「慢性胃炎」に分かれています。しかし、一般的に言われている胃炎の多くは、「慢性胃炎」にあたります。慢性胃炎には3つの意味があります。1つ目は、組織検査を通して病理学的に診断された「組織学的胃炎」です。2つ目は「形態学的胃炎」といい、症状の有無に関係なく、レントゲンや胃カメラ検査で「萎縮」「びらん」「過形成」などがみられたものを指します。3つ目は、胃の痛みや腹部の張り感があるのにも関わらず、胃カメラやレントゲンなどの検査を受けても異常が発見されない「症候性胃炎」です。
欧米でも近年では、消化器症状があるのにも関わらず、胃カメラ・レントゲンを行っても異常が見つからないものを「機能性ディスペプシア(FD、Functionmal Dyspepsia)と診断するようになりました。現代の日本・欧米では「慢性胃炎=組織学的胃炎」と捉える方向で、治療や研究が進められています。
慢性胃炎の症状
胃の痛みや不快感、運動機能の低下、胃酸の低下、それに伴う消化不良、胃もたれ、げっぷ、胸焼け、腹部の張り、食欲低下、胃粘膜が弱くなるといった症状が起こります。1つの症状のみみられる患者様もいらっしゃれば、複数の症状に悩まされる方もいらっしゃいます。中には「無症状だけど家族から受診を勧められた結果、慢性胃炎を指摘された」という患者様もいらっしゃいます。
慢性胃炎の原因
胃粘膜が傷ついた状態が長引いたことで発症します。近年ではピロリ菌の発見をきっかけに、ピロリ菌の感染と慢性胃炎との関係性が明らかになりました。実際に慢性胃炎の原因の多くは、ピロリ菌の感染によるものとされています。香辛料や塩分の多い食事、喫煙、不規則な食習慣も、発症の原因になります。
消炎鎮痛剤の長期服用や基礎疾患、栄養・代謝・微小循環障害(肝硬変、腎不全など)、肝硬変自己免疫疾患(クローン病など)、自己免疫性胃炎(A型)、サイトメガロウイルス感染症などから慢性胃炎になるケースもあります。
慢性胃炎の診断
胃カメラ検査やレントゲンなどを通して、慢性胃炎が隠れていないかをチェックし、最終的には、病理組織検査を行って組織学的な診断をくだします。
胃カメラ検査では胃粘膜の状態や色などを直接見ていきます。必要な方には胃の組織を一部採取して、ピロリ菌に感染していないかをチェックします。胃がんなどの疑いがある際にも、組織検査でチェックすることが可能です。
ピロリ菌感染が進行すると現れる萎縮や腸上皮化生変化などの有無を診ることもできます。
慢性胃炎の治療
ピロリ菌に感染した患者様の中には、自覚症状を伴っていない慢性胃炎にかかっている方も少なくありません。検査で感染の有無をチェックし、陽性かどうかを調べることが大切です。陽性と判定された場合は飲み薬を服用していただく除菌治療を受けていただきます。薬を使った除菌治療の成功率は90%と報告されています。
現在のところ、ピロリ菌に感染した後の胃粘膜を、元の状態へ戻して根治させる治療法は、いまだに確立されていません。
症状のない慢性胃炎
治療は受けなくても問題ありませんが、胃がんの早期発見のために、定期的に胃カメラを受け、胃粘膜の萎縮の拡がりや腸上皮化生の変化がないかをチェックする必要はあります。
胃カメラ検査で萎縮性胃炎の広がりが局所的だと分かった場合は、経過観察で留めておきます。胃体部まで萎縮している場合は、胃がんの早期発見のために、定期的に胃カメラ検査を受けていただきます。
症状のある慢性胃炎
お酒やブラックコーヒー、香辛料の多い料理、肉、揚げ物などの飲食物は、消化が良くありません。食事療法ではこれらの摂取量を控えて、胃の負担を減らしていきます。薬物療法では、胃酸を抑える薬や胃粘膜保護薬、運動機能を調整させる薬などを処方します。漢方薬を処方することも可能です。
慢性胃炎の経過、予後
慢性胃炎は加齢とともに、発症しやすい疾患です。予後の悪くない疾患でもありますが、ピロリ菌に感染したままでいると将来、胃潰瘍や胃がんへ移行しやすくなります。
一度でも慢性胃炎にかかってしまうと、完全に元の胃粘膜へ戻すのは困難とされています。しかし、ピロリ菌の除菌治療を受けると、慢性活動性胃炎の進行が抑えられやすくなります。その結果、胃潰瘍や胃がんのリスクも軽減されます。
ただし、ピロリ菌除菌治療は胃潰瘍の再発予防として有効とされていますが、胃がんを100%完璧に防げる治療法とは言えません。
1年に一回は胃カメラ検査を受け、胃がんの早期発見に努めていきましょう。