腰椎椎間板ヘルニアとは
背骨はヒトの身体を支える役割を担っている部位です。頭を支える頸椎と、背中を支える胸椎、腰を支える腰椎など、24個の骨が連なってできています。この骨と骨の間には「椎間板」と呼ばれる、弾力性に優れた柔らかな骨(軟骨)があります。椎間板は、骨と骨の間のクッションとしての機能を持っています。
「ヘルニア」とは、身体の中にある臓器の一部が、本来あるはずの場所から飛び出てしまう状態です。椎間板の一部が変形して飛び出ることで神経が刺激された結果、腰や手足が痛くなったり痺れたりする疾患を「腰部椎間板ヘルニア」と呼びます。ヘルニアは、頸椎や胸椎にも起こり得ますので、腰椎のみとは限りません。
腰椎椎間板ヘルニアは、悪化すると神経麻痺などの重篤な障害が起こる恐れがあります。「重い物を持ち上げた時」などに、急に立ち上がることすら難しいほどの腰痛が起こった際は、腰椎椎間板ヘルニアが疑われます。その場合は放置せずに受診してください。
腰椎椎間板ヘルニアの症状
ヘルニアの重症度に応じて、症状は異なります。腰や手足に痛みが生じていたとしても、楽な姿勢で横になって安静にすれば、1~2週間のうちに改善できる方もいらっしゃいます。しかし、重度になると排尿障害に至ることもあります。長引くと、太ももや下腿(かたい:膝関節から足首の足関節までの部分)の筋肉が痩せることもあります。足首の捻挫を頻繁に起こしたり、つまづきやすくなったりすることもあるので、放置は禁物です。腰痛そのものは様々な疾患の症状として起こるため、「腰痛がある=腰椎椎間板ヘルニアがある」とは言い切れませんが、足の痺れを伴っている場合はその可能性が高まります。
飛び出た椎間板ヘルニアはほとんどの場合、片側の神経を圧迫するほどのサイズをしているため、片足に痺れが生じやすくなります。腰痛だけでなく片足の痺れも伴っている場合は、腰椎椎間板ヘルニアの可能性が考えられます。
下記の症状に心当たりのある方は、腰椎椎間板ヘルニアが疑われますので、早めに受診しましょう。
椎間板ヘルニアの可能性が高い症状
- 腰や背中が痺れている、激しく痛む
- 片足に痺れるような痛みが走る
- 腰痛によって歩くのが辛くなった
- 腰を前にそらせない
- 腰をそらすと、太ももやふくらはぎに痺れるような痛みが起こる
- すぐに足首を捻挫する
- 何度も足をつまずく
- 尿が出にくい、便秘に悩むようになった
腰椎椎間板ヘルニアの原因
椎間板は全身を支えるため、常に全体重分の負荷がかかっています。実際に「立ち姿勢のまま前かがみになる」「座る」といった日常生活の中で必要な動きでも、体重の約2.5倍もの圧力がかかるとされています。これらの動きを何度も行うことで、椎間板が変性し、椎間板ヘルニアを引き起こすのではないかと指摘されています。
背骨への負荷が大きい動きは、腰椎椎間板ヘルニアの原因になります。「重い物を持ち上げる」「身体をひねらせる」「物を引っ張る」といった動きや、同じ姿勢を続ける生活習慣(長時間の立ち仕事・座り仕事)など、体重増加なども、発症リスクを高める要因です。
発症要因は、これらのような姿勢や動作だけとは限りません。体質や骨の形などのような生まれ持った性質や、加齢からくる椎間板の老化なども、ヘルニアの発症原因になります。
椎間板の中心部には、ゼリー状の柔らかい組織である髄核(ずいかく)が存在します。背骨への負荷が大きくなる姿勢や動きによって椎間板が変性をきたしたり、加齢によって衰えたりすると、椎間板に少しずつ亀裂が大きくでき、ゼリー状の袋のような組織が破れると、周りの神経に刺激が与えられ、痛みや痺れといった症状が起こります。
腰椎椎間板ヘルニアの
診断・検査
整形外科で診られる疾患や怪我の多くは、レントゲン検査を行ってから診断されます。しかし、ヘルニアをレントゲンで見つけることは困難です。ヘルニアは軟骨ですので、レントゲン写真に写り込まないのです。そのためレントゲンで確認することはできません。
椎間板ヘルニアの診断をつけるには、MRIやCT(コンピュータ断層撮影法)、脊髄造影検査、椎間板造影、神経根造影などの検査が必要です。特に有効とされている検査は、身体に電磁波をあてて断層図を撮影するMRIです。
MRIでは磁石や電波が用いられていますが、人体に害を与えることはありません。放射線を使用しない検査ですので、被ばくリスクもゼロです。さらに、注射針を刺したり薬の副作用が生じたりする心配もないため、侵襲性(患者様の身体にかかる負担)が低い検査とも評されています。撮影で得られる情報も多く、かつ外来で気軽に受けられますので、椎間板ヘルニアの可能性が高い患者様にはMRIをお勧めしています。
腰椎椎間板ヘルニアの治療法
まずは症状などについて丁寧にお聞きしてから、MRIなどによる検査を実施します。検査後には、ヘルニアの症状に合った指導を行います。
腰椎椎間板ヘルニアの予防
腰痛の多くは、日常生活の動作や姿勢によって起こるものです。腰への負担が大きい行動を控えるだけでも、ヘルニア予防に繋がります。筋力トレーニングやストレッチ、減量またはダイエットを続けることも重要です。下記のリストを確認しながら、ご自身の生活を振り返ってみましょう。
日常生活上でできる
椎間板ヘルニアの対策
- 長時間同じ姿勢を取らないように過ごす
- 前屈みの姿勢をとる動き(掃除機かけなど)は控える、上半身を起こした姿勢で行う
- 仕事や家事をする際は、適度に小休止を入れて身体を動かす
- 床に座る際は、腰への負担が大きい「あぐらをかく姿勢」をとらない
- 体重が増えないよう、食習慣を見直す
- 筋トレで背筋や腹筋を鍛え続ける