ピロリ菌とは
ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori:以下ピロリ菌)とは、アルカリ性のアンモニアを作り出すことで強酸性の胃の中でも棲み続けられる細菌です。胃・十二指腸潰瘍や機能性ディスペプシアなどの慢性胃炎の原因となりますが、胃癌発生の危険因子として最も重要です。2014年にWHO(世界保健機関)は、胃がんの80%がピロリ菌感染によるものと報告しており、胃がん予防目的にピロリ菌の除菌治療を受けるよう推奨しています。他にも、ピロリ菌感染は胃MALTリンパ腫や胃過形成性ポリープの原因になるなど、様々な疾患の引き金となります。
現在、日本人には少なくとも3000万人以上がピロリ菌に感染していると報告されており、感染を指摘された際は除菌治療が勧められています。
ピロリ菌は高齢者ほど感染率が高い
ピロリ菌は、菌が口から胃内に入る事で感染します。ピロリ菌は免疫力の弱い乳幼児期に感染するとされており、乳幼児期における上下水道の整備事情によって、感染リスクが上下するといわれています。近年では国内の衛生環境が良くなっているため、ピロリ菌感染率も大幅に下がっていますが、今でも若年層の感染もゼロになっているとは言い切れません。2010年の年代別のピロリ菌感染率は、60歳代で50%以上、50歳代で40%以上ですが、40歳代では30%未満、30歳代では20%未満と報告されています。また2030年には、60歳代で30%、50歳代で20%、40歳代で10%になるのではと予測されています。
ピロリ菌感染でやっかいなのは、ピロリ菌陽性でもほとんどの人は症状を自覚していないことです。しかし無自覚のままでも胃の粘膜は弱い炎症を起こし続けており、そこに何かきっかけが加わることで胃潰瘍や、機能性ディスペプシアなど様々な疾患の原因となります。胃癌の一番のリスク因子であることは忘れてはなりません。
自分にピロリ菌がいるかを調べるには検査をしなければ分からないため、当院ではピロリ菌検査を積極的におすすめしており、陽性と判明した方には除菌治療を続けて行っております。
ピロリ菌の診断方法
ピロリ菌感染の有無を調べる方法には代表的に6種類あります。ここで重要なのは、それぞれピロリ菌の検出率(感度や特異度)はかなり高いのですが、どの検査も100%正しいとは限らないということです。患者さんの状況によっては、複数組み合わせて検査を行うことがあります。
内視鏡検査を利用して行う検査とそれ以外の検査があります。
内視鏡検査で行う場合(当院では採用していません)
胃カメラ検査時に胃粘膜の一部を採取し、採取したサンプルからピロリ菌感染有無を判定するものです。
検鏡法
内視鏡で採取した組織検体中にピロリ菌がいるかどうかを直接顕微鏡で確認する方法です。
培養法
組織粘膜を培養し、ピロリ菌が増殖してくるかを見る検査です。培養をするので、結果が7日程度かかること、検査機関の熟練度の差で精度にばらつきがあることなどありますが、薬剤耐性を調べることもできます。
迅速ウレアーゼ法
採取した細胞と試薬を混ぜて、ピロリ菌の産生するアンモニアを検出する方法です。その日に短時間で結果が出ますが、患者さんの内服薬などにも影響をうけます。
内視鏡検査を行わない検査
抗体検査
ピロリ菌に感染した際に作られた抗体の有無を調べます。抗体は、血液や唾液、尿などに含まれていますが、当院では血中抗体値を検査します。簡便に検査できますが、除菌が成功した後も長期間陽性が続くことがあり、検査結果の解釈には注意が必要です。
尿素呼気試験
検査薬を内服する前後の呼気を分析することで、ピロリ菌の有無を検査します。最も精度の高い検査で、当院では除菌薬内服後の除菌判定に利用しています。
便中抗原検査(当院では対応していません)
便中にピロリ菌の抗原が入っていないかを調べ、感染の有無を確かめる検査です。
ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌が陽性と診断されれば、続いて除菌治療を行います。7日間連続して薬を飲むだけで治療自体は終了です。その後、一定期間(当院では通常3か月)後に除菌が成功したか調べます。1回目の除菌治療(1次除菌)の成功率は90%とされており、1次除菌がうまくいかなかった場合でも、次は薬の組み合わせを変えて2回目の除菌治療(2次除菌)が行えます。2次除菌の成功率も90%程度の確率で成功すると言われています。保険診療による除菌治療は2次除菌まで適用されます。
除菌治療の注意点と副作用
薬の飲み間違い、飲み忘れ、自己判断での減薬などは、除菌に失敗する率が増え、しかも抗生物質が効かない耐性菌を作ってしまう可能性がありますので、用法・容量は守るようにしてください。
薬のアレルギーは医師のほうでも極力確認するようにしておりますが、特にペニシリンアレルギーがある方は、医師・薬剤師にお伝えください。
以下のような副作用があります。いずれも一時的なもので服用終了後に改善すると考えられています。
1. 下痢・軟便
約10~30%の方に起こるといわれています。1日2~3回の下痢・軟便であれば、中止せず最後まで飲んでください。
2. 味覚異常
食べ物の味が普段と異なる、苦味や金属のような味がすることが5~15%の方に起こります。
3. 皮膚の異常
皮膚に蕁麻疹・発疹などが現れることがあります。
数%の方に発熱や腹痛をともなうひどい下痢、血便、強い皮膚の異常、アレルギー反応が起こる場合があります。そのような場合は薬を中断し、医師に相談してください。
さらに、除菌治療が終わってから逆流性食道炎の症状(胸焼けなど)が現れることもありますが、これは胃酸の分泌を抑える薬の効果によるものです。一時的に落ちていた胃酸の分泌が服用終了後に、元に戻ることで起こる現象ですので、心配する必要はありません。
当院では、除菌できたかどうかの判定を尿素呼気試験で行っております。判定試験までが除菌治療となりますので、必ず受けるようにしましょう。