肩の痛み

肩の痛みとは

肩が痛むと日常生活上の多くの動きに、支障をきたしてしまいます。「洗濯物を干す」「戸棚に手を伸ばす」「電車の吊り革につかまる」「服の脱ぎ着」などの動きを行う際、肩は使われていますが、肩を痛めると、様々な場面で行う動きをとることすら難しくなります。肩に起こる疾患はスポーツでも起こりやすいです。診察では、どういった動きをした時に痛むのか、痛みの度合い、頻度などを細かくチェックし、適切な治療へ繋げていきます。

肩のメカニズム

一般的に肩関節は、上腕骨の先端(球体のように丸くなっています)と、お皿のような形をした骨である関節窩(上腕骨の先を包むような形をしています)で成り立っています。関節窩と上腕骨の先端は、お互い擦れ合うように動いています。関節窩は背中側に大きく広がっている肩甲骨の一部で、お皿のくぼみもかなり浅めに作られています。このくぼみが浅いおかげで、肩は大きな可動域を得て、上下左右に動かすことができます。
肩には「腱板」があり、上腕骨骨頭を包むように4つの筋肉が板状に覆われています。私たちが腕を動かすと、腱板は収縮を起こし、上腕骨骨頭は関節窩へ引き寄せられるように動きます。このおかげで、肩関節がなめらかに動いてくれます。
しかし、肩関節の部分の骨にズレ・変形などができると、肩がスムーズに動かなくなります。痛みだけでなく、軟骨や腱板部分などの不調も招きます。肩や腕を動かす可動域にも悪影響を及ぼすため、今まで毎日できていた動きができなくなります。

主な症状

「肩を使う動きをとった結果、強い痛みが起こった」というケースが多いです。痛みが長期間続くほど無意識に肩をかばおうとするため、肩周りの筋肉も少しずつこわばり始めます(可動域の制限)。その結果、さらに症状が悪化してしまいます

肩に異常を生じる原因

原因は多岐に渡りますが、主に外傷によるもの、加齢によるもの、原因が特定できないものに分かれています。

外傷

交通事故やスポーツなどで肩を怪我したり脱臼したりすると、肩に痛みが起こります。特に、転んだ時に腕を強く打ったことで、肩に異常を感じる患者様がよくみられます。

加齢による変性

加齢が原因で痛みなどの異常が起こるタイプです。関節周りの組織で生じやすく、特に筋肉と骨がくっついている腱板に、異常が起こりやすいとされています。

代表的な疾患

脱臼

一般的に「肩が外れる」と言われる状態です。肩関節は先述した通り、球体の形をした骨とお皿に似た骨が摩擦し合うように動いています。球体側のサイズも小さく、お皿のくぼみも浅めに作られています。このおかげで高い可動域が保たれているのですが、その分緩みやすく、外れやすいという弱みもあります。無理な方向に強い負荷がかかったり、思いがけない角度で腕を強く打ってしまったりした場合は、脱臼が生じやすくなります。
脱臼によって周りの筋肉や靭帯、関節包などにも損傷が起こると、治るスピードは遅くなり、脱臼が癖になる状態に陥りやすくなります。脱臼を頻繁に繰り返すと「変形性肩関節症」を発症する可能性があるため、脱臼をした場合は速やかに骨を正しい位置へ修復しなくてはなりません。しばらく安静に過ごしてから適切なリハビリを行い、筋力を回復させることが重要です。

石灰沈着性腱板炎

腱板に石灰(リン酸カルシウム結晶)が沈着し、炎症を起こすと強い痛みが引き起こされる疾患です。中年期以降の方の発症者が多く、病期に応じた治療がありそれぞれ適切な治療を行うことで症状が緩和することが多いです。

急性期

痛みを感じ始めてから約1カ月の間は、強い炎症が続きます。安静時や夜間にも強い痛みが起こるため、しばらくの間は肩を動かすのも難しくなります。この時期は安静と石灰周囲への注射治療が効果的です。適切な治療を続けていけば治癒されるケースが多いので、ご安心ください。

慢性期

安静時や夜間の痛みは改善していきますが、肩を動かした際に石灰と肩甲骨の一部が擦れて、肩のインピンメント症候群を生じる可能性があります。この時期はリハビリテーションと注射治療を組み合わせて治療を行うことが多いです。

凍結肩(いわゆる四十肩/五十肩)

中年期以降の方が発症しやすい肩のトラブルです。病態は様々ですが、炎症が強い時期は眠れない痛みを伴うことがあります。この際は無理に動かすと痛みが悪化するため安静と痛み止めの内服や炎症を抑える注射治療を行います。治療により徐々に痛みは落ち着きますが、痛みが改善しても肩の動きが硬い時期が2−3ヶ月続くことも多いです。この時期にはリハビリテーションを行い肩の動きの改善を目指します。

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腱板損傷/腱板断裂

腱板部は、骨と筋肉がくっついている部位で、骨と骨に挟まれている箇所でもあるため、摩耗が起こりやすいです。加齢などによって腱板が弱くなり軽微な外傷でも切れてしまうことがあります。また切れていても気がついていないこともあります。断裂部に炎症が伴うと痛みが強くなったり、腕が上がらなくなります。バレーボールや野球などの競技をきっかけに、発症するケースも少なくありません。
軽症でしたらリハビリテーションや対症療法で元の状態まで改善できますが。重度の場合は手術が必要となることもあります。

肩こり

肩や首周りの筋肉がこわばったり過度の緊張を起こしたり、血の巡りが悪くなったりすることで起こります。痛みがひどい場合は消炎鎮痛剤を使った薬物療法が有効です。症状の度合いを考慮しながら、痛み止めや筋肉の張りをほぐす薬剤を処方したり、過剰に硬くなった筋肉に注射したり(トリガーブロック注射・ハイドロリリース)していきます。
肩こりは、あくまで筋肉の痛みであって、骨の異常によるものではありません。筋肉をリラックスさせながら代謝・血行の改善を続けていけば、症状は比較的早めに落ち着きます。温熱療法などの物理療法や理学療法も活用していけば、よりスムーズに改善されやすくなります。

野球肩

野球に熱心に取り組まれているお子様から大人まで、幅広い年齢層の方にみられる疾患です。患者様の年代などを考慮しながら、投球フォームのどの部分で肩が痛むのか、年齢的な問題なども加味しながら治療方針について検討していきます。

スポーツで起こりやすい
インピンジメント症候群

「インピンジメント(impingement)」とは「衝突」を意味する言葉です。肩を激しく動かす動きを何度もすると、関節の中で骨同士がぶつかり合ったり、筋肉が骨の間に挟み込まれたりするなどの障害が起こりやすくなり、組織部に損傷ができて痛みがひどくなります。野球をはじめ、バレーボールやテニス、バドミントンなどのような、腕を前に大きく振る動きが多いスポーツをされている方によくみられます。

診断

診察時の症状と合わせて、肩の腱板などの軟部組織を損傷していることもあり、画像検査が必要となることがあります。

レントゲン

骨の変形の有無のような、形状的な問題を早く見つけるために、動作時の骨の摩耗具合や負荷が大きくかかりやすい構造になっていないかなどをチェックします。

超音波検査

筋肉の炎症の状態や、加齢による変化(腱板断裂など)がないかを調べる時に行われます。

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MRI

肩関節内部の腱板部や筋肉など、軟部組織の状態を細かくチェックすることができます。

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治療

治療方法は症状や重症度によって変わります。

薬物治療

痛み止めや貼り薬などを処方します。患者様の状態によっては症状をさらに抑えるために、ヒアルロン酸やステロイド剤を関節内へ注射することもあります。石灰沈着性腱板炎の急性期の方には、針を使った石灰吸引を行うこともあります。

安静

症状がひどい場合はしばらくの間、肩に無理をさせないよう安静にして過ごしていただきます。特に、スポーツ障害による痛みがある場合は、十分に運動機能が元に戻るよう休養期間を確保していただきます。

運動器リハビリテーション

豊富な専門スキルを持った理学療法士の指導を受けながら、正しい肩の動きの指導やストレッチ、筋力を高める運動などを行い、筋肉のこわばりを解消させて柔軟性を取り戻します。加えて、正しい腕の上げ方・下げ方や位置のチェック、再発予防を目的とした負担の少ない肩の使い方などについても、丁寧に指導します。

肩の痛みでお悩みの方は
ご相談ください

肩の痛みの治療では、急性期(症状が強い時期)のうちに炎症を抑える治療を積極的に行うのが重要とされていますので、肩に異常を感じた際は、放置せずにご相談ください。長期間放置したままでいると、関節が固まり、さらに治療にかかる時間が長引いてしまうことがあります。また四十肩、五十肩だから自然に治ると思い病院を受診しない方もいらっしゃいますが、腱板断裂が隠れていることもあり、痛みが強い際や続く際は早めに受診いただくことをお勧めします。
多種多様なリハビリテーションに対応しながら、少しでも早く回復できるようサポートしていきます。理学療法士が優しく丁寧に、一人ひとりに向き合いながらプログラムを指導していきます。肩の痛みでお悩みの方はぜひお気軽にご相談ください。