ばね指(弾発指)とは
手の指には「屈筋腱(くっきんけん)」と「靭帯性腱鞘(じんたいせいけんしょう)」という組織が存在します。腱が靭帯性腱鞘の中を行き来するように移動することで、私たちはスムーズに指を曲げたり伸ばしたりすることができます。
しかし、何らかの理由で指の腱鞘に炎症が起こると、腱鞘が腫れて大きくなります。腱が大きくなると通り道が狭くなるため、腱と腱鞘がぶつかって痛みを感じやすくなります。
摩擦された腱の一部にも炎症が生じて大きくなると、腱鞘内を通る度に引っかかるようになり、指の曲げ伸ばしがうまくできなくなり、症状が現れます。
曲がった指を戻そうと無理やり強い力をかけると、腱の引っかかりが取れて腱鞘を通る瞬間、弾かれたように指が伸びます。
ばね指の症状
セルフチェック
- 指が曲がったままで戻らない
- 曲がった指を戻そうと力を入れると、ばねのようにカクンとはねる(ばね現象)
- 手の平側の指の付け根に、腫れや圧痛、熱感がある
- 指の曲げ伸ばしがスムーズにいかない、途中で引っかかっている
- 朝起きた時、指がこわばって動かしにくい
これらの症状に1つでも当てはまっている場合は、ばね指が疑われます。
ばね指はどの指にも起こり得ますが、特に親指と中指、薬指によくみられます。特に起床時に強い症状がみられますが、日中で手を使い続けることで改善される傾向があります。
初期症状は軽い痛みや違和感で、この段階でしたら安静にしていれば回復することが多いです。しかし進行するにつれて、痛みやばね現象がひどくなります。最悪の場合、指が動かなくなる状態まで進行します。
ばね指の原因
指の使い過ぎ
普段から手や指をよく使っている方は、腱と腱鞘への負荷がかかり続けるため、そうでない方よりも炎症が起こりやすい傾向があります。特に下記のような動きは、ばね指を引き起こしやすいとされています。
- パソコンのキーボードやマウスを使う作業
- ゴルフやテニスなど、手を酷使するスポーツ
- ピアノなど、指を酷使する楽器の演奏
ばね指を発症しやすい人は?
性別関係なくどなたでも発症する可能性はあります。稀にですが幼少期の指に起こるケースもあります。特に、下記に当てはまる方は発症しやすい傾向にあります。
更年期~更年期以降の女性
女性は50歳前後になるとホルモンの分泌が変わるため、ばね指になりやすい傾向があります。
妊娠中や産後の女性
更年期と同じように、妊娠や出産を迎えた女性もホルモンバランスが乱れやすいです。更年期と似た状態になるため、ばね指になりやすい傾向があります。
関節リウマチや糖尿病、
人工透析患者
関節リウマチや糖尿病などを発症すると、末梢の血行が悪くなりやすくなりますので、ばね指の発症リスクも高くなります。
一度でも炎症が起こると治癒しにくくなるため、重症化する方もいらっしゃいます。複数の指に発症する多発性のばね指や、一度よくなってもすぐに再発するケースもあるため、基礎疾患の治療を続けることが重要です。
ばね指の診断法
問診・触診
専門医が問診や触診を行います。指の痛みや腫れ、ばね現象がないかをチェックしてから、診断をくだします。
レントゲン
ばね指自体、腱と腱鞘の炎症ですので、レントゲン検査で確認することはできません。しかし、骨の異常や似たような疾患と見分けるために、行うことがあります。
ばね指の治療法
指の可動域を改善させ、痛みを抑えていきます。治療は2種類あり、症状を良くする「保存的療法」と、メスを使って根治させる「手術療法」に分かれています。診断内容に合わせて、以下の方法から選択され、複数の治療法を組み合わせることもあります。
保存的療法の種類
安静にする
軽症でしたら患部を酷使させずに、安静にするだけで改善することがあります。
患部の負担を軽減するため、添え木やサポーター、テーピングなどを使い、関節を一時的に固定することもあります。
薬物療法
患部の炎症を抑えて痛みを解消させるため、湿布や塗り薬、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)を処方します。
理学療法
超音波や電気を使った治療を行います。治療器の刺激を患部の深部にまで作用させることで、血の巡りを良くして痛みの軽減を目指します。理学療法士がマッサージ(ストレッチ)を施すこともあります。薬物療法ほどの即効性は実感できませんが、継続することで頑固な症状が改善されやすくなります。
腱鞘内ステロイド注射
強い痛みで日常生活に悪影響を及ぼしている場合は、炎症を起こしている腱鞘の中に直接、ステロイド剤と局所麻酔薬を混ぜた薬を注射します。特に「トリアムシノロン」と呼ばれるステロイド剤は効きやすく、一度注射しただけでも、3~6ヶ月程度痛みを軽減したまま過ごせます(なお、効果には個人差があるのでご了承ください)。一度注射しただけで完治する方もいらっしゃいますが、期待していた効果が得られなかった場合や、再発した際は、再度注射を受けていただくことがあります。
ただし、ステロイド治療を何度も行うと、感染症や腱・腱鞘の断裂などの副作用が起こりやすくなりますので、医師から指示された治療回数と頻度を守りましょう。
手術療法
腱鞘切開手術
ばね指の治療では、初めからすぐに手術を勧めることはありません。しかし、ステロイド注射を続けてもなかなか改善されなかった場合や、頻繁に再発する場合は、手術を選択することがあります。
痛みの原因である腱鞘を切開し、その一部を切り離す方法が行われます。そうすることで、辛い症状を改善させます。手術が必要な方は連携する医療機関へご紹介いたします。
ばね指の発症予防
ばね指は一度でも発症すると、完治に時間がかかる疾患ですので、発症を防ぐことが重要です。特にパソコン操作などのような手を使う作業をする際は、長時間作業し続けるのではなく、1時間に一回休憩を入れて手指を休ませましょう。痛みやこわばりなどを感じる際は、下記の方法でケアしてください。
アイシング(冷却)
または温め
手指の酷使によって鈍痛が現れた場合や、炎症によって熱がこもったような感覚がある場合は、アイシングを行いましょう。患部を冷やすのは、腱の炎症を抑えるのに有効とされています。逆に、血流不良から手指のこわばりや痛みが長引いている場合は、手を温めてみましょう。
ぬるま湯を入れた洗面器に手指を入れて温めると、血の巡りが良くなりますので、痛みが改善されやすくなります。
ストレッチ
痛みがあったり安静のために長期間固定し続けたりすると、指を動かさなくなるため、どんどん血流が悪くなります。関節自体も固くなりますので、適度な運動を行って柔軟性を維持することも重要です。
こまめに「腕を上にあげてひらひら動かす」「グーとパーの動きを繰り返す」などの動きを続けてみるだけでも効果は得られますが、下記のストレッチを行うと、より腱の緊張や腱鞘との摩擦が解消されやすくなります。これらのストレッチは発症を防ぐ上でも有効です。
おすすめストレッチ①
手首を軽く反らせた状態で、ブロック状の物を指の腹と親指の付け根で挟みましょう。指の付け根を縮めるように、力を入れて押し合ってください。
おすすめストレッチ②
軽く手首を反らせたまま、指を伸ばしてみましょう。そして反対側の手で、さらに反らしてください。
※ストレッチは適度な負荷をかけて行いましょう。もし、ストレッチ中に痛みが強くなった時は、すぐに止めて医師へ相談してください。
こまめなケアと早期受診でばね指の進行を予防
私たちは普段、意識せずに手や指を使っています。しかし炎症によって手指が痛みだすと、「物を持ち上げる」「握る」「つかむ」といった動きが困難になり、仕事や家事に大きな悪影響を及ぼすこともあります。
24時間365日の中で、手を全く使わない日はありませんので、手指を安静にするのは難しいですが、まずは使いすぎを避けてストレッチなどのケアを続けるだけでも、進行を防ぐことはできます。
それらを続けても症状が解消されなかったり悪化したりした場合は、速やかにご相談ください。当院では、患者様一人ひとりの状態に合った治療を提供しています。